私は一人納得し、意を決して口を開いた。
「あの実は……」
「それにね真希ちゃん、姫ちゃんはお茶汲みから経験してる女子社員の鑑なのよ」
祥子さんがビールジョッキ片手に、私の肩をバンバンと叩く。思わず言葉を飲み込んだ。
「ええっ? 今時お茶汲みですか?」
真希ちゃんが、信じられないと言った顔でこちらを見る。
「あ、うん。入社当時は、だよ」
「さすがに今はそんなのないよね。今そんなことさせたら、セクハラパワハラだって問題になるわよー」
「ですよねー。私絶対やりたくないもん。あ、早田さんにならお茶入れてあげたいかな」
真希ちゃんは否定しつつも、調子の良いことを言う。
「真希ちゃん現金な子! とはいっても、女は損よねー。頑張ったって出世の道もないんだからさぁ」
祥子さんはビールを煽りながら嘆いた。
私は空いた大皿を店員さんに返しながら、新しく運ばれてきた天ぷらの大皿と交換する。「祥子さん、今はだいぶ緩和されましたよ。女性役職者もいますし」
「そう? だったら姫ちゃんだってそろそろ階級が上がったってよくない?」
「階級って何ですか?」
真希ちゃんの質問に祥子さんは少し声を落とし、早田さんの方をこっそり指差す。
「真希ちゃん、課長になるためにはいくつ階級があると思う?」
「課長の前がグループ長で、その前が主任でしたっけ? だから三つ?」
祥子さんはカバンからペンを取り出すと、割り箸の箸包みに階級を書き出す。
平社員から主任に上がるには、一級から三級までの三段階あり、主任からグループ長に上がるにも試験がある。その上の課長になるためには、試験と上司からの推薦が必要だ。 うちの会社は大手で歴史も古く、今なお昔ながらの階級制度が残っている。「さっすが、祥子さん詳しいですね」
「私は元社員だもの。結婚出産で退職してパートで出戻りしただけだから、会社の事情は割りと知ってるわ。昔は産休育休なんて取れなかったのよねぇ」
「へえー」
真希ちゃんと私はしきりに感心した。
確かに祥子さんの言うとおり、出世に関してはまだまだ男尊女卑の傾向は強い。今はだいぶ制度が整ってきたので、ようやく女性役職者が増えてきた。産休育休の取得率も上がっているみたいだ。